「自然体の家族」で

インターネットをはじめ、そこら中に溢れる受験についての情報、それら情報を上手に、有効に使うことは、現代の受験準備において必要不可欠かもしれません。とは言え、情報に振り回されぬよう、時には立ち止まり、しっかりと考える、初心に立ち返り考えることも必要です。

ありのままの姿で学校に向かう

「他の家庭より有利になるにはどうすれば良いでしょうか?」
「願書に何を書くと学校には好印象になりますか?」
「面接で何を話せば面接官に気に入られるのでしょう?」

幼児教室マナーズ が開校した1990年代、相談に来られたご両親が、真顔で、真剣に、身を乗り出してこういうことをたずねられました。
当時は、まだまだインターネットの時代ではありませんでした。情報と言えば、幼児教室や数少ない情報雑誌。あとは、小学校受験経験者でした。
こんな状況ですから、当然、「合格への極意」をズバリたずねて、いざいざ!の勢いになられたことも笑えませんでした。

時代は移り・・・今は様々な方法で、簡単に情報が得られるようになりました。ですから、ご相談者が、1990年代のような質問をされることはありません。なぜなら、「合格の極意」がネット上で溢れているからです。
「宗教色のある志望校の場合は、〇〇という言葉を強調することが必須」や「共学校向けの面接対策」等々、。
しかし、受験のための即席の考え、美辞麗句に彩られた願書や、にわか仕立ての人格や家族の姿で良いのですか?

まだ入学できるかどうかはわかりませんが、それでも、大切な我が子がお世話になろうとしている学校に対して、そういう姿勢で願書に向かうこと、面接に臨むことに恥ずかしさを感じる・・・そういう真摯な姿勢を持つご家庭であって欲しい、と思います。

面接は「ハレの日」です

小学校受験の面接官は、校長先生お一人の場合もあれば、校長先生・教頭先生・主任の先生と書記的な先生と複数の場合など、様々でしょう。このように面接の形態は違っても、面接官は決して新任の若い先生がお一人で担当されるというようなことはありません。必ず、然るべき立場で、学校が求める子ども、学校が求めるご家庭を熟知された方が対応されるのが常です。面接という大切な日、そういう先生方の前に座り、真実の人格が宿らないご家族の姿で本当にいいですか?面接は「ハレの日」です。偽りの姿で臨むのは、悲しいです。

もちろん、志願者家庭の中には、先生方に対して失礼になってはいけない、という思いから練習を重ねられた、というご家庭もあるでしょうね。そういうことであれば、それは素敵なことですね。けれど、あっちこっちから出してきたモザイク的な美辞麗句や、学校要覧に書かれた建学の精神や校訓を散りばめた家庭の姿が見えない言葉の数々・・・そのほうが、もっと失礼だと思うのです。

角度を変えて考えてみましょう。

面接官となる先生方は、その私立小学校で、毎年100名近い子ども達を育てておられます。今までに数多くの卒業生を輩出されてきたことでしょう。そしてまた、毎年、多くの志願者家庭の面接に向かわれ、たくさんのご両親とお話になっているはずです。そういう先生方は「人を見る目」、「偽りを見抜く心眼」をお持ちだと思えてなりません。そういう先生方に、「ああ、このご家庭も、本当の姿が見えない・・・」と思わせてしまうのは残念です。

また、最近増えているのが「練習や対策は馬鹿げているから、出たとこ勝負で行ってきます」というツワモノのご両親。ご自分のための就職試験であればそれも良いでしょうが、小学校受験の面接は、我が子の「父」「母」として臨むもの。社会人の礼儀として、「出たとこ勝負」はあまりに礼を失する姿ではないでしょうか。

誰も「自分を装う」ことはできません

「そんなこと、言われなくてもわかっています。百も承知しています。でも、願書を書くことも、面接に臨むことも、心配、不安でいっぱいだから、ネットや虎の巻の情報に頼りたくなるのです!」という非難ごうごうが聞こえてきそうです。
そうですね。そのことも十分に理解しています!

だからこそ、敢えて、重ねてお話をしましょう。
面接で話すお相手は教育者です。

先ほども書いた通り、日頃から「人を育てる仕事」をされている先生方の目は、それほど節穴ではありません。言葉遣い、立ち居振る舞い、すべてから「その人」が伝わっていきます。そして、その人、そのご家庭が見えていくでしょう。

「真実の言葉」は、発した瞬間からそこに魂が宿ります。言葉とは、単なる音の羅列、音の連続ですが、人の口から発せられたとたん、そこには魂が宿るのです。それを「言霊(ことだま)」ということはご存知ですね。真実の言葉には熱がこもり、心のこもらない偽りの言葉には魂が宿らない。
朴訥で、決してお話が上手な方ではなかったとしても「ああ、心に残るお話だったなあ…」と感じられた経験はありませんか?その反対も然りで、話が上手な人だったけどグッとくるものがなかった、ということもありますね。

面接官である先生方は、面接の間、いえ、ご家族がそのお部屋に入った瞬間から、その部屋に流れる空気と温度、そういうすべてから、「あなた達、ご家族」を感じられるのです。

ちょっとした「背伸び」と「自然体」

幼児教室マナーズ では、パパやママ達とたくさんお話をします。話題は受験や子育てのことばかりではなく、いろんなお話をしていくうちに、ご家庭の空気、雰囲気、ご両親のお考えを深く感じるようになっていきます。
願書を書くお手伝いや、模擬面接の時にも、各ご家庭との密な関係、深い理解が、通り一遍のアドバイスではなく、それぞれのご家庭に添った適切な言葉かけになっていきます。
小学校受験には「ちょっとした背伸びは」は大切です。そういう背伸びは、人としての居ずまいを正し、良い緊張感を持つことになるからです。「良い緊張感」を持って、親子で真摯に学校に向かう姿勢は、本来、私立校という特別の世界の門を叩く、あるべき姿だと思います。

世の中に、100点の親子、満点の家庭など存在しません。また、満点の家庭の基準もありませんし、また満点である必要もない。

我が子のために良い教育環境をという思い、親の姿は尊いものです。我が子の教育を真剣に考える両親ならば、自分の思い描く理想の親像もお持ちでしょう。しかし、そんな理想の親であることを目指しながらも、理想と現実の狭間で歯ぎしりし、時には自分の親としての不甲斐なさを悔いたり反省したりしながら、日々の生活を一生懸命に送られているのではありませんか?そんな毎日の積み重ねの中で、かけがえのない我が子に愛情を注ぎ、常に我が子にとっての最善、最良の道を模索している、きっとあなたはそういうご両親だと思います。それこそが、すばらしい真実の親の姿でしょう。

志望する小学校に向かう時には、常に偽りのない正直な姿、自然体で、礼を尽くし、ちょっとした背伸びを意識して向かいましょう。